頭の隅の日常たち

頭の中の出来事をマイペースに書いています。ゆっくりしていってね!

日本の夏は暑すぎる!【寸劇】

あ、あづいいいい

リビングのソファーにだらしなく横たわり、懸命にうちわで顔を仰ぐリリィ。

逆の手に持つスマホには、「厳しい暑さが続く」と絶望的な見出しのネットニュースが映っている。

ただいまー、って暑っ!?エアコン付けろよ!

帰宅したハルは蒸し風呂のような室温に驚愕し、慌ててクーラーのリモコンに手を伸ばした。

ダ、ダメだよ!昨日話したじゃん!電気代がヤバいだって!3万超えてんだよ!?

でもこんなに暑いと死ぬって!お前も汗だくじゃねーか!これならまだ外の方が風がある分涼しいぞ!?

どうやら7月の電気代が高かったので、今月は節約することになっているようだ。

いつものように言い合いを始めるかと思いきや、二人はすぐにぐったりとうなだれた。

暑すぎてアンタの馬鹿に付き合ってる余裕ないよ

本当ならお前の馬鹿を俺が何とかしてやりたいんだけど、今は暑すぎて無理だ。何か、何か無いか?

ハルはそう言って部屋を見回しと、隅に置いてある扇風機の前に移動した。

エアコンは仕方ないとして・・・これならいいだろ

ハルは扇風機の強風を顔面に受け、気持ちよさそうに目を細めた。

あ!ずるい!我慢してたのに!

お、おい!押すなよ!

扇風機を付けたハルを見てソファーから飛び起きたリリィは、ハルを押しのけるようにして扇風機の前を陣取った。

それに対抗して、ハルも扇風機を両手で掴んで自分に引き寄せようとする。

くっつくなって!暑いんだよ!

ならハルがどいてよ!

俺が先に使ってただろうが!

扇風機を奪い合う二人だったが、その戦いも長くは続かなかった。

もう、早くどいてよ、暑い、から

お前が、どけよ、俺の、扇風機だぞ

アンタのじゃないでしょ

俺がつけたから、俺の

いよいよ暑さの限界を迎えたのか、二人は一つの扇風機を抱えるようにして、その場にへたり込んでしまう。

部屋の温度と二人の熱気のせいか、扇風機からは温風しか感じる事ができない。

あ、そういえば

ハルは何かを思い出したのか、すっと立ち上がると、足早にキッチンへ向かった。

そして、

ふっふっふ、おいリリィ。俺がその温風しか出さない扇風機から冷風が出るようにしてやる

戻ってきたハルの手には濡れたタオルが握られていた。

これを扇風機の裏側に置くと・・・

ひゃっ!冷たい風が出たよ!?

ふっふっふ、どうだ?このまえネットで見たんだよ。タオルの水分が気化して冷たい風になるらしいんだ

これ・・・めっちゃいい

久々の冷風に感動したリリィの顔は、穏やかに崩れていた。

しかし時間がたつと、

ねぇ、風がまた温かくなってきたんだけど

部屋が暑いからな。それに冷たい風にも慣れてきたんじゃないか?

クッソー、せめてずっと冷たい風が出るように・・・あっ!

今度はリリィが何かに気付き、足早に脱衣所の方へ向かった。

そして、

アタシ・・・天才かもしれない

リリィは大きめのたらいにタオル付扇風機を入れながらニヤリと微笑んだ。

おいおい、何する気なんだ?

不安そうにハルが見守る中、リリィは設置を完了させてドヤ顔で実演を始めた。

これは名付けて「ウォーター扇風機」!扇風機についてるタオルを桶まで垂らしてー、この桶に水を溜めておけばー

なるほど!タオルが水を吸うからずっと涼しい風が出るってことか!

そういうこと!すごいでしょ!さっそく試すよ!

嬉しそうにそう言うと、リリィは勢いよく桶に水を流し込んだ。

・・・扇風機が入った桶に。

あれ?扇風機、動かないね?

これって・・・いや、よく考えたらそりゃそうなるだろ!家電を水につけたら壊れるに決まってるわ!どうしてくれんだよ!?もう扇風機なんてないぞ!?

何をしでかしたのか、ようやく理解したリリィは、

こ、これはもとはといえばハルのせいだよ!ハルが濡れタオルなんて持ってくるから!

何で俺なんだよ!どう考えてもお前が馬鹿だったからだろ!

アンタの方が馬鹿だよ!壊れるって分かってたんならやる前に言ってよ!

はぁ!?逆ギレすんなよ!

二人の喧騒は家の外まで響いていたが、その声も暑さに飲まれたのか、すぐに聞こえなくなったのだった。

 

 

 

一方そのころ。

ふぅ、やっぱり暑い日はカフェに限りますわ

うん。クーラー利いてるし、飲み物も冷たいし、静かだから読書もはかどる

可愛い女の子が沢山いて、わたくしもはかどりますわ

・・・

家でハルたちが図らずも暖を取っている中、ルナとマリンは近所のカフェで涼を取りながら各々趣味に没頭していたのだった。